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【第12話】
『誰が野球を殺すのか』
(2004/9/8)


 中学2年の春だった。弟が読んでいた小学館の学習雑誌(ただのマンガ本だけど)『小学4年生』5月号に、『ジャイアンツV2物語』という読み切りの漫画が掲載されていた。77年のセ・リーグ、ペナントレースは王、張本、ジョンソンらの打線爆発。小林、加藤初、堀内、新浦に新人の藤城まで大活躍で長嶋ジャイアンツがV2を果たす…という仮定のお話をシーズン開幕の号に載せたわけだ。当時、既に中日ファンだった僕は憤慨して、編集部に電話して抗議した。現実に優勝した話ならともかく、なぜ巨人ファンだけが喜ぶような架空の話を載せるのか。読者の中には中日ファンだって阪神ファンだっているはずだ。巨人優勝!といって喜ぶ子供だけじゃない
と。編集部の人は実に穏やかに、「全国的に巨人ファンが多いということでこのような漫画を掲載しました。来月号では他の5球団も取り上げますので今後ともよろしくお願いします」と説明した。僕も抗議電話は生まれて初めてだったので、ちょっと緊張していたこともあり、「あ、そうですか。なら、いいんです」とあっさり引き下がってしまった。翌月号に載った野球の記事はセの5球団にちょこちょこっとふれてはいるものの結局、巨人中心の記事だった。あのとき、「なんでパ・リーグのことも載せないのか」と抗議した少年もいたのだろうか。

 僕も初めは巨人ファンだった。というか、本物のプロ野球よりも「巨人の星」を先に見ていた僕らは、プロ野球というのは巨人と言う正義の味方が阪神や中日などの悪役をやっつけるストーリーだと思っていた。子供はYGマークの帽子しかかぶっていなかったし、店にはそれしか売っていなかった。父親が後楽園球場に連れて行ってくれる試合がいつも巨人−中日戦なので何故かと聞いたところ、父が中日ファンであると打ち明けられた。それを機に、無邪気に巨人を応援していた自分を恥じて、中日ファンになろうと誓ったのが小学4年生のとき。その親孝行ぶりが野球の神様に気に入られたのか、翌年、中日が巨人のV10を阻止して優勝。以来、縁あってファイターズ・ファンに転じるまでドラゴンズ一筋に四半世紀を過ごした。誰と群れることなく、一人でドラゴンズの勝敗に一喜一憂した。99年の秋も神宮球場で一人、星野の胴上げを見た。だけど、どこかに寂しさを感じていた。中日が優勝しても、中日ファンしか喜ばない。「やっぱり巨人が強くないと面白くない」なんて声を聞くと、テストで100点取ったのに喜んでもらえない子供みたいな気分だった。

 プロ野球の危機。きっかけは親会社の経営不振なんだけど、そもそもの原因は収入に見合わない人件費(=高騰する選手の年俸)。その原因は欠陥だらけのドラフト制度とFA制度。どうして欠陥だからなのかというと、特定の球団に入ると、幸せな野球人生が約束される(と思われる)から。でも、そういう特定の球団を作ってしまったのはメディアの責任じゃないかと思う。

 メディア的に「野球が盛り上がる」とか「盛り下がる」ってことを考えたとき、思い当たる節がある。学生の頃、コンパやパーティーの出欠を取るとすぐに返事をせず、メンバー的に盛り上がりそうか確かめてから参加する女の子たちがいた。うまく立ち回って、オイシイところだけ頂こうってわけだ。世間的にその風潮はどんどん強くなっている。ワールドカップの時だけのサッカーファン。100万超えたら200万も300万も売れてしまうベストセラー。視聴率の高い番組・話題の映画に雪だるま式に客が集まる不思議。プロ野球では去年のタイガースがその傾向にハマったけど、今年優勝してもあれほどは盛り上がらなかっただろう。その日、その場で旬のものを戴こうというスローフード主義っていうのか。いや違う。「行列のできる店」に行けば間違いないと思っているに過ぎない。いけないのは、メディアまでがそうなっちゃってることだ。行列のできる店だけを取り上げる。Jリーグは今いち盛り上がらないとか、大相撲はもうだめだとか、あんたたちが言ったら終わりでしょ。ヨン様と違うんだから。自分の国のスポーツ文化を育てる気がなかったら、自分の首を絞めるだけなんだから。

 メディアがスポーツに妙な期待をしているのもおかしい。例えば、最近のプロ野球選手は個性がなくなったとか言うけど、個性を見分ける目を持っているのか。新庄みたいなわかりやすい個性ばっかり期待されても困る。ファイターズなら横山だって木元だって充分個性的だ。プロなんだから「見せる野球を」と言うけど、真剣勝負以外に何を見せろというのか。「悪の総統」や「ハッスル!ハッスル!」みたいなソースやドレッシングで味付けしたスポーツもあるにはあるけど、野球は演出不要、素材の味で勝負できるソフトじゃないのか。なんて、パ・リーグを見るようになって5年目の僕が偉そうなことを言ってすまん。言い過ぎた。ただ、長年パ・リーグを見続けた人はメディアを通さずに作り上げた、自前の野球観を持っている。本当に味わい深く野球を楽しんでるなあと感心する。だからセ・リーグよりもパ・リーグを、とまでは言わないけど、知る人ぞ知る美味い店を「行列のできる店」に変えるのはメディアの醍醐味なんじゃないのか。

 今年は巨人戦の視聴率が低下して、レギュラー番組の方が軒並み高くなっている。今回のストによって、低視聴率の巨人戦よりも高視聴率のレギュラーを放送できるケースもあるだろう。それを「もっけの幸い」としてどーする!?って思う。テレビは今こそ緊急プロ野球特番を組むべきだ。プロ野球ファンのタレントを総動員して、VTRもふんだんに使って、70年代最強だった上田阪急やイチローのいたオリックスの優勝シーン、近鉄が敗れた「江夏の21球」「10・18」などなど見せながら、球団がなくなることはどういうことか。それを見殺しにすることの無念さを伝えないといけない。だから企画書、書きます。「24時間テレビ 愛は野球を救う」。どこかのテレビでやってください。


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