
【第11話】
『ぎっくり腰』
(2004/4/12)
| 4月7日に発売された雑誌「anan」は一年中で一番売れるという例の号。11年連続「好きな男ランキング第1位」の木村拓哉のコメントには驚いた。「このランキングが発表される時期って、いつもドラマの撮影中なんだよね。ちょうど、気力も体力も尽きてきて、大丈夫か俺って感じの時。それでこの結果を聞かされてはっと立ち直る。世の中があまりハッピーじゃないから、こういう素敵な報告はホント、嬉しい」。これはまだイラクの日本人人質事件の前のコメントである。ただ、「世の中がハッピーじゃないから」の中には「不景気」や「鳥インフルエンザ」や「幼児虐待」とともに「イラク戦争」も含まれていたと思われる。「吉野家の牛丼消える」も入っていたかもしれない。そんな「世の中があまりハッピーじゃない」ときに、「こういう素敵な報告」でハッピーになれたのである。キムタクは。うらやましいなキムタク。僕はキムタクにはなりたくないが、ハッピーにはなりたい。でも、これが「素敵な報告」とも思えないし、ちっとも嬉しくない。僕はへそ曲がりなのかもしれない。 41歳になる春、生まれて初めて「ぎっくり腰」になった。駅前の駐輪場。原付のU字ロックをはずすためにしゃがんだ瞬間、「ぎっくり」してしまった。初めてなのに「ああ、これが《ぎっくり腰》だ」と、すぐにわかった。背骨のどのあたりかもわかった。腹を上にした断面図なら右下。時計の文字盤でいうと「5時」のあたりだ。 その瞬間、いろいろなことが頭をよぎった。ベッドで腰を牽引していた椎間板ヘルニアの患者さん。人の肩を借りて、1歩あたり5センチずつ、「電車ごっこ」で移動していたタレントのJ.K.さん…。「ぎっくり」の先輩たちの苦悩が目に浮かぶ。大変なことになった。整形外科に行くと予想通り「ぎっくり腰」、正式には「腰椎捻挫」の診断。幸いX線写真に異常は見られず、軽症とのこと。翌日、仕事に出かけた先で「僕、ぎっくり腰やっちゃったんですよ」と話したときの、相手のリアクションが面白かった。ぎっくり腰の経験者、もしくは経験者っぽい人を選んで話したせいもあったけど、なんというか、受刑者が新入りを見るような優しい眼差しなのである。「あんたもやっちまったのかい」「気をつけないとクセになるよ」「仰向けに寝るのはダメね。うつぶせはもってのほか。横になって膝を抱えるようにして」「座るときは背筋を伸ばすのが一番楽なんだよね」「痛みが取れたら腹筋を鍛えることだね。水泳がいいよ。あ、平泳ぎはダメだよ。クロールね」。経験した者だけがわかる会話とアドバイスが嬉しい。文化放送のソトヤさんやウッドオフィスのヤマヤさんと一日中、ぎっくり腰の話をしていたい気分だった。とはいえ、もう「ぎっくり腰」は懲り懲りなわけで、あれ以来、地面のものを拾うときには腰を曲げずに、スクワット(足の屈伸)で拾うようにしている。本格的な「ぎっくり仲間」には、まだ入りたくないのだ。 |