四回戦

ゲスト対談者は文化放送アナウンサーの斉藤一美さんです。


一回へ


2回表
 いやー、初回からズンズン具体的なとこに踏み込んでますねー。新人時代のアナウンサー教育の話は、なるほどなぁと思いました。僕は斉藤一美アナが実況のなかで、例えば「定型を使う」、場合によっては「定型を崩す」意識を持ってるのを感じています。定型に安住して、その外側を想像すらしない人とは、ハッキリ意識が違う。

 僕が個人的に斉藤さんと知り合ったのは、90年代の中頃、斉藤さんが『とんかつワイド』って夜帯の若者番組をやってた頃だと思います。その後、スポーツへ行った(戻った?)わけだけど、僕はサイトウさんの実況には若者番組(って言い方もアレだけど)やってた、サブカルっぽい感性があると思ってる。斉藤さんは表面的にはスポーツ実況やってて(その水準が高い)、その上、サブチャンネルみたいなとこを使ってますね。そのサブチャンネルは伝わる人だけ伝わればいい、みたいなやつ。

 90年代中頃っていうのは、けっこうターニングポイントで、例えば野茂がMLBへ行ったり、BS、CS放送等の多チャンネルが普及したり、徐々にPCが浸透していったり、スポーツファンの情報性が変化していった時期ですね。安定した「医者コント」の解説者がMLBについてトンチンカンなコメントしたりして(しかも、その試合を一般ファンがBSで見てたりして)、経験至上主義の実況スタイルに皆、?と思いだした。経験至上主義の実況スタイルは本質的に「昔話」ですよ。それをどう面白く伝えるかはあっても、その引き出しだけじゃちょっとつらくなってきた。

 僕が斉藤さんに注目したのは、現場での感応力です。スタンドの空気に感応し、グラウンド上の出来事に感応し、しかも、使ってる引き出しが多様だ。感応力については、いつだったか「事件遭遇力」という言い方をしたことがありますね。斉藤さんには何かに出くわす力がある。で、引き出しの多い人は(つまり、茶柱寄りの人は)、出くわすべき何かを自分で見つけだす。

 90年代中頃というのは、僕が文化放送で朝ワイドを始めた頃です。僕はあの番組で、まぁ、オタクっぽいといえばオタクっぽい、サブカルっぽいといえばサブカルっぽい、僕の考えるリアルなパ・リーグを連日、オンエアにのせた。で、実際はそれが本流だと確信してたんです。まだネットが本格化する前でしたが、絶対にこっちが本流になると。だもんで斉藤一美はQRのエースになると思いました。唯一、それに着目してるスタッフがついてるかどうかだけが心配でしたね。



  えのきどいちろう




2回裏
 相変わらず痛いトコ突いてきますね。
“榎”という字が名前に入っている方は、蜂の一刺しが得意なのでしょうか?
ただ、この場合は純粋に心配して下さってのことなので救われる思いです。

着目してくれているスタッフはいますが「隠れ一美シンパ」みたいな感じで『応援』のノリに近いですね。
何も隠れることはないじゃないか!と叫びたくなります。
でも、やはり僕の実況は“反主流派(=定型崩し)”ですから、仕方ないかな、と。

これでも一応、定型の実況を構築しようともがいた時期もあったんです。
ところが入社4年目に【とんカツワイド】を任されるようになり、直前の番組である【ライオンズナイター】を毎日スタジオで聴くようになって気がつきました。
選手の表情やボールの細かい動き・観客の様子といった、今まさに目の前に広がっているはずの風景が何だかぼんやりしていたのです。
ましてや、集音マイクで外野スタンドの応援歌をこれでもか!というくらいに拾うわりには、その歌詞について全く触れない中継に矛盾を感じたりもしました。
将来自分が実況する機会があれば、見えないものをもっと見せて、おぼろげなものの輪郭をさらにハッキリさせよう、と志した結果が「反主流派実況」の原点なのです。

で、スポーツアナに復帰後このスタイルを試してみたら【とんカツ】前と比べて、面白いように言葉があふれ出てきました。
僕の場合、目で捉えた情報をなるべく余すことなく伝えるのが性に合っていたのです。

もちろん、常識的な方にとっては不要な情報も言葉に代えてしまうので、うっとうしいと思われることがあるのは承知しております。
それでも、分かる方は絶対にいるはず、と信じて喋っているのです。
えのきどさんはそこもお見通しだったようで・・・ホント、鋭いなぁ。

「事件遭遇力」の話は、数年前なのに昨日のことのように覚えています(森本稀哲選手のお父様をご紹介いただいた日だったので、なおさら)。
蒸し暑さが残る西武球場前駅でえのきどさんとバッタリお会いした時、こんなお話をして下さいました。

『サイトウさんが実況する日は、何かこう、大事な試合ってことが多いよね。松坂のデビュー戦とかさ。きっと「遭遇力」があるんですよ。
 いや、直前までドシャ降りの雨でも、撮影の時間になるとピーカンになるカメラマンとかね、ホントにいるの。サイトウさんはそういう人じゃないかな』

WBC日本代表を予選から追いかけて現地で世界一の瞬間を見届けた時や、ハムのリーグ優勝&日本一を実況した後に、確かにこの「遭遇力」を感じましたよ。
身に余る光栄です。

こういった素晴らしい光景を少しでも分かりやすく伝えるためには、日々、滑舌を磨かなければなりません。
えのきどさんは、以前【意気揚々】の中で『滑舌を良くするためには、唇を小刻みに震わせる訓練をすればいい』っておっしゃっていました。
僕はこれをラジオで聴いて以来、一日も欠かさず、家を出て駅へ歩きながら、すれ違う人の視線に注意しつつ、ずーっと「ププププププププ」とやってるんです。
年に2回くらい、何やってんだろーなぁオレ、って空しさが漂わないこともありませんが、今さらやめられず、愚直に続けています。
ですから、ビフォー・アフターで比べると、圧倒的に「ププププ・アフター」の現在の方が舌は回っている、と思いたいです。ちなみに唇の話、ウソじゃないっスよね?



  斉藤一美

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