今までの


四回戦

ゲスト対談者は文化放送アナウンサーの斉藤一美さんです。


1回表
 先日は『斉藤一美 うるわしの夜』(QR、日曜夕方)に呼んでいただき、ありがとうございます。サイトーさんが茶柱本を熟読してくれてたのに驚きました。番組ラスト近くでわざわざ「シンポジウム」(02年、12月18日初出)の回をとり上げて、「何故、スポーツアナはバカのふりをするのか?」問題に話を向けてくれたでしょう。

 サイトーさんは「痛いところを突かれた」とコメントしていましたが、実際、ナイター中継を担当する第一線のスポーツアナとしてはどうなんすか? 僕は質問の水準を上げてくれた方が、結局リスナーも面白いと思ってあれを書いたんだけど、「バカ」に徹した方がもしかしたら一般人の為かも知れない。少なくとも僕は野球に関しては、もはや一般人じゃないすから。

 原稿では「今のはカーブですか?」「カーブです」といちいち解説者におうかがいをたてなきゃならない、役割の制度化について書きましたが、一方で(番組中も話しましたが)、今のカットボールとかツーシームとか、微妙な変化球は中継映像をスロー再生しても、何だかサッパリわかりませんね。球種は難しくなりましたよ。
アメリカの中継みたくファストボールとブレーキングボールだけだったらカンタンですけどねぇ。

 でも、アレですか、たまに医者コントとか学校コントみたいに役割を演じてる自覚があるんでしょうか? 初回はここから入ります。



  えのきどいちろう




1回裏
 こちらこそ、私が制作総指揮も担当する“自作自演番組”にお越しいただきまして誠にありがとうございました。
かなり前の話になりますが、えのきどさんが私について『この人とはいつか仕事をする時が来る』風に書いて下さっていたのを今でも何となく覚えておりまして「あ、いい機会かも」と思ったのです。

ゲストにお呼びするにあたり、最新刊に目を通すのは当然とはいえ えのきどさんの、サッカーを捉える視点の鋭さと温かさに触れ「あぁ、ラジオと一緒だぁ」と2ページ読むごとに感動していました。

ただ一つ<シンポジウム>(サッカー茶柱観測所・P61)を除いては。

読んだ瞬間、レバーブローを喰らった感覚でしたよ、あれは。

“解説者の言葉を引き出してこそ、一人前の実況アナだ”
“だから答えは分かっていても、こちらはわざと質問をするものだ” 
“球種・戦術・技術論を口にして説得力があるのは、解説者の方だ”

新人の頃、諸先輩からこういった教育を受けていました。
ただ私は、自分が分からないことを訊きたい性格なので この常識に疑問を持ちながら、中継スタイルを探っていた時にNACK5の一人喋り実況に出会ったのです(5年ほど前までライオンズ戦限定で業務提携していたため 弊社アナウンサーが時々派遣されていました)。

とても自由で楽しくて、好き放題に喋らせて頂いたのを覚えています。 

でも、このイメージのまま解説の方がいらっしゃる中継に臨んでも コンビネーションはギクシャクすることに気がついたのです。
試しに、えのきどさん曰く「バカのふり」をしてみると 会話のテンポは意外と上手く運んでいくのに驚いてしまいました。

実況アナの性として、解説者に『やりにくいな、コイツ』と思われたくはありません。


「今のはカーブですか?」『カーブです』
分かりきったことを確認するこの手のやりとりを私は“会話の潤滑油だ!”と割り切るようになりました。
そうすれば、大事な場面で素晴らしい解説を引き出せるかもしれないからです。

あと「今のはカーブですよね」『スライダーです』と否定された時にカッコ悪いから「今のはカーブですか?」と語尾を変えて逃げ道を作っているフシもありますね。

でも本当にカッコ悪いのは、それをリスナーに見透かされていることなんですよ。
えのきどさんが書いた<シンポジウム>は、この厳然たる事実を私に突きつけてきたのです。

すげぇ痛かった。そして、恥ずかしかった。
だって、本当は特に訊きたくもなかったりすることも訊いたりしてるんですもん。
そんな“よくある中継スタイル”に与している自分が、茶柱本を読んで以来イヤでイヤで。

だからこそ、番組の中でご紹介しました。
ラジオの前の皆さんにも「そういえばそうだな。あのやりとりはまるで医者コントだよ」と 気づいて欲しかったからです。
少なくとも実況アナの方は、役割を演じている自覚はあると思います。

辛いのは、絶対にこちらの方が正しい!と確信がある時です。
松坂大輔が投げるボールの軌道を、放送席とセンターカメラの映像から長年見続けた結果100%の自信を持って「チェンジアップ、空振り三振!」と謳い上げた後に解説者に『フォークですね』と言われたら、グッと我慢しなければなりません。
その後、試合終了までチェンジアップは全て「フォークボール」に変わるのです。
この点は、コントのアドリブ対応と言えるかもしれません。

そういったジレンマの中でも、私が好んで使う“医者コント”は東尾修さんや西本聖さんと組んだ時のやりとりです。
「今、シュートをかけましたか?」『ハイ、確かにシュートですね!』みたいなヤツ。

自分を大投手に押し上げた球種を耳にすると、心なしか言葉も弾み 中継がパッと華やぐ瞬間があるんですよ。こんな時は、コントさまさまです。

えのきどさんとラジオ中継についてもっと話したかったので このメール対談はまさに願ったり叶ったりです。
ラジオの野球放送に望むことがあれば、どんどんおっしゃって下さい。
私の実力でも可能なことならば、臆せず試してみますので。



 文化放送ライオンズナイター 実況というか絶叫担当  斉藤一美

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